エンジェル リング |
何もかも、普通だった。 最初の出会いも、その幼なげな容姿も、日々の会話も。 そう、なにもかも。 アンジェリーク。 宇宙を統べる、あの女王の候補である事が信じられないくらいにどこもかしこも平凡な君を、あちこちで見かけるようになったのはいつの頃からだったか? その時の俺は、気付いていなかったんだ。 良く見かけるようになったのは、俺が君を視線で追いかけるようになったからなんだと。 女性は恋で磨かれるという。 君は一体誰に恋しているのか? そんな事ばかりを考えて、『お嬢ちゃんはまだまだコドモだな』なんて自分を誤魔化してばかりいた。 つくづく素直になれない自分に苛立ったりもしたが、仕方がなかった。君は周りの誰からも好かれていたし、君は誰に対しても、その眩しい笑顔を絶やしたりはしなかったから。 例え見せかけでも余裕な振りをしていなければ、自分が惨めになるばかりじゃないか。 「オスカー様?」 目の前の君が笑った。 「何を考えていらっしゃるんですか」 君が微かに微笑み。 「決まっている、お嬢ちゃんの事さ」 俺が笑顔で答える。 「もうっ!いつもそうやってはぐらかすんですね」 本当の事なんだが。日頃の行いが良すぎて、信じてもらえないらしい。 「でも、私の事をいつも考えてもらえるようになれたら……」 そこまで言って、アンジェリークは口を閉ざし、うつむいた。 最近思う。 もしかしたら、君は、俺の期待する通りに、俺の事を想ってくれているんじゃないかと。 まばゆく輝く君の瞳が伏せがちになり、頬は淡い桜色に染まっている。そんな顔を、誰にでも見せている訳じゃないだろう? 最近の俺ときたら、他の女性の事なんてまるで眼中になくなってるんだぜ。この、オスカーともあろう者が。 正直、そんな事はありえないと考える前に、思いつきもしなかった。まさか、この俺が君に本気でこんな想いを抱く瞬間が訪れるなどと。 君の存在の眩しさに気付いた時、今まで見落としていたものがある事を知った。 光り輝く、エンジェル・リング。 優し気な光を放ちながらも、それは君の最大の武器となる。 そのリングは華やかな鎖のように絡みつき、まるで永久にはずせない枷のように。 けれど、その枷の心地よさが、俺の中で至上のものとなる。 それはきっと、君と俺を永遠の幸福へと導くものなのだろう。 こんな想いも、悪くない。 全ての者のための女王ではなく、俺一人のための天使に、今ならきっと出来るだろう。 そろそろ『お嬢ちゃん』を返上して、たった一人の女性に。 このオスカーが、その殻を叩き割ってやろうか。 「今日のオスカー様、なんだか変」 頬杖をつく君が、やっぱりいとおしい。 もうそろそろ、落ちてしまおう。その天使の手の中に。 「お嬢ちゃん。今日は、森の湖まで出掛けてみないか」 君が笑顔でうなずき、俺が手を差し伸べる。 ふたりの新しい物語は――多分、ここからはじまる。 END ☆なんか、どうかしてますね、このオスカー。 |