Hearts
| An epilogue WHITE FLOWER | |
郁実は、圭斗と泉を連れて近所の寺に顔を出した。 住職に挨拶をすると、一度奥に引っ込んだ住職はひと抱えの箱を持って、再び郁実の前に現われた。 畳の上に置かれたその箱の前に、郁実は持ってきた鉄砲ユリの花を置く。 「悪いな……きみの好きな花を、俺は知らなくて」 ユリは、郁実の好きな花だ。 この寺には、透子と華子の遺骨が無縁仏として安置されている。色々な過程はあったが、結局身元の分らなかった二人を、この寺が引き取ったのだ。郁実の前に置かれた箱の中には、あの時の二人の衣類などが収められている。 「今なら、わかるのですよ。あなたがどんな光景を、その目にしていたのかがね」 住職がゆっくりと話し出す。 魔物の存在が公式に認められている今日。当時は信じられなかったような話も、今はほとんどの人間が理解できる。 この住職は、あの事件の本当の理由を関係者から聞きながら、その事を胸の内にしまっておいた人間のひとりだ。 「華子、まだここにいるね?」 郁実は呟く。 昨日、榊から聞いていた華子の存在を思い浮かべた。 郁実に、華子の姿は見えない。完全に、郁実の視界に入らない魂の形になってしまっているのだ。 しかし、華子はそこにいた。 ずっと、そばにいたよ。 でももう、今度こそ、本当に大丈夫だよね。 ずっと前から大丈夫だったもんね。 華子は、郁実の目の前でそっと微笑んだ。 「ずっと来られなくて、すまなかった」 郁実は、目の前にいるであろう華子に向かって呟く。 「ありがとう。もう、大丈夫だ」 うん。華子も、ありがとう。 来てくれて、ありがとう。 あの人が教えてくれたね。 郁実の近くにいるあの人は、とても綺麗な人ね。 綺麗で純粋な、混じり気の無い心の色を持つ人。 でもね、あの人は、とても怖い人ね。 綺麗で純粋な色――でもその色は、とてもとても、深い黒。 どんな色も、深い黒の中には溶けて消えてしまうから…… 心を、落とさないでね。 それに、染まってしまわないでね。 郁実ちゃんの持つ、真っ白な心の色。 それを黒に、溶かしてしまわないでね。 闇の色を変えられるのは、強烈な光だけ―― そんな光が現われるまで、 郁実ちゃんは、彼が歯車を回してしまわないように、 この世界を守ってね。 ずっとずっと、みんなで―― 「華子が、消えた」 圭斗が呟いた。 既に、圭斗にもうまく見る事のできない形になっていた華子だが、その気配だけは、感じ取れていたらしい。 「……そうか」 郁実は俯く。 「光が現われるまで、黒に染まるなとさ」 華子の意識の断片を拾った圭斗の言葉を、郁実だけが理解した。 黒と言われた彼の顔を思い出し、思わず苦笑してしまう。 「――了解」 郁実は振り返ると、後ろに控えた二人に言った。 「付き合わせて悪かったな。行こうか」 兄妹は、笑って頷く。 これで、全てが終わった。 あの事件に関する事、華子への贖罪の日々が、すべて。 これからも、あんな事件を再び起こさないために頑張らなければならないのだ。全ては無理でも、手に届く範囲だけでも、守れるように。 その為に、強くなろうと決めたのだから。 それを教えてくれたのは、過去に出会った全ての友人、家族、そして深すぎる心の色を持ったあの人だったけれど―― それをすべて、自分の強さに変えて。 今の郁実は、ただ前に進むだけだった。 END ☆お、お疲れ様っす……。大分はしょったのにこの長さ(--;)。こんな感じなんすけど、どうっすか(笑)? えーと、MT7未経験の方のために注釈を入れさせていただきますと、本文中に登場する人物の中で榊と時岡はMT7の時に主催側の会社が用意したキャラクターです。他は、すべて私のオリジナルキャラで、実際にゲームに参加していたのは氷村郁実のみです。 |